種子法やめるってさ(前篇)

主要農作物種子法が廃止されます。他に衆目を集める話題がいっぱいあるので、ひっそりと廃止されます。農業関係の仕事をしていなければ、あるいはしていても、なじみもないし、興味も薄い法律でしょう。それってばいったい何なの?についてはおいおい話すとして、まず、廃止をするという「法律案」の内容について、衆議院のホームページをみたら思わず吹き出しました。
じゃーん。

最近における農業をめぐる状況の変化に鑑み、主要農作物種子法を廃止する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

扱いが雑(ザツ)ですよね。近頃こういうの多いので、とくに驚きはないんでけども。こんなの誰も気にしないから適当でいいんっじゃねムードがあふれていますね。というわけで、今回と次回は、主要農産物種子法とはなんなのか、そして粛々と廃止されるであろうこの法案に関連して思うところを淡々と書こうと思います。
まず、主要農産物種子法について簡単に説明しておくと、主要農産物すなわちコメ、麦、大豆のタネがちゃんと生産されるように都道府県が責任をもちなさいという法律です。ちゃんと発芽するってのは重要ですが、それだけじゃあありません。タネというものは、クローンじゃないから、厳密には一個一個違います。それでもコシヒカリはコシヒカリであってほしいし、エンレイ(大豆の品種)はエンレイであってほしいとたいがいの人が思っています。その要求にこたえるには、コシヒカリならコシヒカリの性質、エンレイならエンレイの性質を保つため、他の品種と混ざらないように(交雑しないように)タネを生産する必要があるわけです。その辺りをちゃんと監督しなさいよってのが、この法律の趣旨です。さらに、この法律は、各都道府県が奨励品種を決める制度の根拠になっています。法律じたいには「奨励品種」という言葉はでてきませんが、主要農産物種子制度運用基本要綱(農水省通達)に奨励品種を定めるように指示されています。各都道府県ごとにその地にあった品種を定めてそれを農家に作ってもらうようにというありがたい仰せです。奨励品種を作るとJAがちょっとしたひいきをしてくれるし、そもそもコメ・麦・大豆を収穫したあと必要になる乾燥とか調整とかのための設備がない場合、小ロットで奇抜な品種を生産しても困ってしまうので、ふつうは黙って奨励品種をつくります。売るのも大変ですからね。
次に、なぜ廃止するのかについてみていきましょう。さきほどの衆議院ホームページでは、さっぱり訳がわかりませんので、他の資料として、「主要農作物種子法を廃止する法律案の概要」という半ペらをみますと、ようするに、

種子の品質はもう安定しているから、公共機関が管理しなくていいじゃん。むしろ、民間企業が参入する妨げになるし。

とのことです。法律があったればこそ、品質が安定してるんじゃないの?なんて一般人が考えそうなことは考えないところがさすがです。クールジャパンです。そんでもって、我が国で一等クールに違いない現政権のもとで設立された規制改革推進会議の議事録(第2回規制改革推進会議 農業ワーキング・グループ合同会議事録合)に本件に関する議論が見つかります。この議事録によれば、「県の決める奨励品種が、国と県が開発したものに限られていて、民間の参入を妨げているのが、制度的な課題じゃないかと思う」と出席者が言っています。そう思っちゃったんだからしょうがないです。先ほども言ったように法律自体には奨励品種については何も書いてないし、民間の参入を妨げるような条文はひとつもありません。奨励品種については、農水省の通達だけですから、事務レベルでなんとでもできることです。なんてことをいっても、近頃の政治家はそういう議論も嫌いですよね。まあ仕方がありません。
一方、法律廃止について心配されている生真面目な方々は、種子の品質の低下もさることながら、これが廃止になると、世界に4つか5つしかない種子生産大手に牛耳られてしまうんじゃないかとハラハラされているかもしれません。それも遺伝子組み換え作物がばんばん入ってきて自由に食べ物を選べなくなるんじゃないかと。そうかもですね。大方そうなります。仕方がありません。特に業界トップの会社は、秘密主義ですし、すばらしく信用できない会社です。ひかえめに言って。種子の生産をするにあたって、都道府県に管理されるなんてまっぴらごめんだとこの会社ならそういうでしょう。ちなみに、コメや麦で認可されている遺伝子組み換え品種はありません。該当するのは大豆だけ。現在15品種が認可されそのうち8品種はこの会社です。あっそうかー、その会社のために法律廃止するのかーあーぜんぜん気が付かなかったー。
そういえば、ボツになったTPPも、農業関係の内容をみると、遺伝子組み換え食品を加盟国に受け入れさせることを重点においてました。遺伝子組み換え作物の是非については色々意見があるだろうと思いますが、私は嫌いです。嫌いなもんは嫌いです。
失礼。私の好き嫌いはどうでもよいことです。なんのかんの言っても、この法律は来年に廃止されます。そういうわけで、打ちひしがれているのかといえばそうではありません。実をいうと、規制改革推進会議とはぜんぜん違う理由ですが、私もこの法律に問題があると思っていたからです。何が問題なのか。それについて書き始めるとまた長くなりそうなので、次回、後篇にて申し上げたいと思います。

おわび:「3年後に廃止されます」と書きましたが、来年でした。本文は修正しました。申し訳ありませんでした。