春告げ鳥を追い立てる

東京あたりではもう桜が咲いて、すっかり春めいているようですね。石川でもつぼみがピンク色にふくらんできている今日このごろです。

みなさんこんにちは。田んぼでも作業開始です。去年コンバイン(イネを刈る機械)で踏みつけた後、冬中放っておいて、すっかり堅くなっている田んぼを、まず柔らかくします。これを荒起こしといいます。ようするに田んぼを耕すのです。耕すのにたいがいはトラクタを使います。トラクタの後ろにロータリとかプラウとかいうものをつけてドドドーとかき回すのです。ドドドっと土をかき回しますと、土の中にいるミミズやらカエルやらがぴょんぴょん飛び出してきます(ミミズは飛ばないけど、実際カエルも飛んでないかな)。それをねらって、いろんな鳥が集まってきます。こやつらは、トラクタをそんなに怖がらないのでかなり近よってきます。こちらとしては、トラクタの運転がかなりヒマなので、鳥が集まってきてくれるのは結構うれしいわけです。

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写真は順に、ハシボソガラス、セグロカモメ、ムクドリ、ハクセキレイ

カラスやムクドリ、ハクセキレイ、アオサギといった鳥は、すでに起こしたところを歩いて獲物を探したり、トラクタのすぐ後ろにいて飛び足してくるやつを狙ったりしています。だけど、ちょっと様子が違うのが、ときどきヒラヒラっと視界に入ってきては見失います。何かなと思ってトラクタを止めてじっと見ると、まだ耕してなくて、スズメノカタビラやらタネツケバナやらが生えているところに何かが・・・うーんヒバリです。このヒバリさんは、昭和の歌姫とは違って、たいそう地味なので地べたにいると風景に溶け込んでしまうのです。

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彼がヒバリ。色調整したけどやはりとけこんでいる。

さて、このヒバリのすごいところは、スズメほどの小さな体なのに地上から見えないほどの高さまで舞い上がっていってさえずることです。テイクオフとともにチュビチュビと言いながら登って行って、高ーいところでチュリチュリ・・・といい続け、力尽きると(?)チュピーとかいって急降下してきます。春になるとこのさえずりを盛んにするので、春を告げる鳥として、古来から、世界的に親しまれています。それにしても、飛んでいる間はずっと羽ばたいているし、しかも大きな声で鳴き続けるんですが、一回の飛行でどれくらいのカロリを消費するのかぜひ知りたいです。ヒバリのこの行動は、巣作りの初めのころに行われ、なわばりの宣言だといわれています。「ここは俺の陣地だ!」だと。ヒバリは、草原や河原に縄張りを作って地上で巣作りをします。ある文献によれば、平均的ななわばり面積は5,000平方m以上(5反部)以上もあるそうなので、あれだけ高く上らなきゃいけないのも合点がいきます。

なわばり争いは早春から始まって、ちょうど今頃までにほとんどかたが付いているようです。実際、もう空鳴きしていますから、彼にとってはそこがなわばりのはず。そこへトラクタはやってきます。容赦ないです。1000平方m当たり、ものの20分くらいで、これから巣を作ろうとしてた草原をかちゃかちゃにしてしまいます。いずれ、田んぼには水が入り、彼らのお好みの場所ではなくなるのだから、早めに追い出した方が親切とも言えるかもしれないですが、追い出された後、彼らの行く先はどうなるのか。河原はコンクリートだし、野原は駐車場になってたり。放棄水田はすぐにヨシやススキが茂ってしまって、ヨシキリなんかは喜ぶでしょうが、ヒバリにとっては面白くないでしょう。

東京都における調査をみると、1970年代から1990年代にかけてヒバリはものすごい勢いで減少したとのこと。もう東京の人なんか、ヒバリのこと自体よく知らないかもしれない(まあ石川でも知らない人多い)。ヒバリの減少は、ヨーロッパでも指摘されていて、麦の品種の転換とか、農地の大規模化とかが原因じゃないかといわれています。鳥というのは思ったよりも行動範囲が広いので、「あーヒバリいなくなったな。たぶんあれのせいだわ。」みたいな考えは、だいたいハズれますけど、現場で彼らを追い出している側から見ると、そりゃー減るだろ。って思うわけです。

農業っていうのは、自然破壊です。人類はそうすることにしたんです。ずいぶんと前に。だから、田んぼからヒバリを追い出すのも仕方がない。でもね。どこにも行き場がないほどにやりたい放題やっていいということはない。かつて、人間の破壊力は大したことなかった。だから、すきますきまにいろんな生き物が暮らしてこれた。だからあまり考えなくてもよかった。今はちょいと違います。ものすごい力で環境を変えられます。だから考えなきゃいけない。感じなきゃいけない。ヒバリもいないような農村じゃ、つまらないって。